宇陀川の子安地蔵【奈良】
- 2013/01/13
- 19:00
奈良 安産寺
奈良県宇陀市三本松地区の高台に石垣を高く築いた安産寺がある。ここの収蔵庫に、平安時代の一木造りで量感に富んだ177.5cmの地蔵菩薩立像が祀られている。 安産寺は宇田川の左岸にあり、室生寺から直線距離で4~5キロほど南にある。集落の中心を近鉄大阪線が抜け、主要道路である国道165号線や最寄りの三本松駅からは急坂を登って安産寺へと向かう。 ![]() |
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安産寺 | |||
ここは無住の寺で山号や宗派は持たない。今は地蔵菩薩を祀る安産寺としてだけでなく、五十戸ほどの三本松中村地区の公民館も兼ねて中村地区から選出された世話役数名によって管理されている。 ![]() |
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安産寺 | |||
仏堂の奥に建つ収蔵庫は通路でつながれており、平安初期に作られた一木造りの地蔵菩薩立像はここに安置されている。 量感のある体躯に穏やかな衣紋線が肩から腹部にかけて流れる。切れ長の目に鼻筋の通ったその尊顔は無垢な子供のように澄んだ表情をしていた。脚部はリズミカルに翻波式衣紋を刻み、足元には沓を履く。 ![]() |
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安産寺 子安地蔵 | |||
江戸時代に彩色されたと伝わるこの像は昭和17年に今の状態である古色へと修理をし、昭和39年~53年までは幾度も博物館へ寄託されていたが、地元の人達の信仰は厚く、博物館に対して「地区の守り本尊をこの地へ戻して欲しい」と呼びかけを続け、昭和50年(1975年)に重要文化財として安置するための収蔵庫を建て陳情を送った。 こうして、念願叶い無事に三本松へと帰ってきた地蔵菩薩像には、安産を祈願して多くの参拝者があると言う。また実際に子を授かった人が何人もお礼参りに訪れるのだと収蔵庫の鍵を開けてくれた世話役さんが嬉しそうに話してくれた。 ![]() |
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安産寺 子安地蔵 | |||
さて、この地蔵菩薩立像の由来にはいくつかあり、寺伝はなく言い伝えでしか残っていないのだが、これが興味を惹かれる内容だった。 ひとつは、この集落に語り継がれているもので、その昔9月9日に豪雨により宇陀川が増水した時に、上流よりこの地蔵菩薩が流され安産寺の対岸にある海神社に流れ着いたという。これに驚いた村人たちはこの像を安置するために集落へと運び、今の安産寺のあるこの場所に草堂を構えてお祀りをしたのがはじまりだという。 ここで言う宇陀川の上流とは女人高野で知られる室生寺のことであり、本像は室生寺金堂の釈迦如来立像と比べると、着衣を染めた赤や様式が酷似しており同じ製作者であったと想像できる。 室生寺金堂の向かって右には光背をつけた地蔵菩薩立像が安置されているのだが、光背が大きすぎて非常に不釣り合いである。安産寺の地蔵菩薩像がこの光背を背にするとバランスが合うことから、やはり室生寺金堂に当初は安置されていたのかもしれない。 もうひとつは、室生寺で聞いた話でこの集落には仏師がいて、室生寺はここへ地蔵菩薩像を修理に出したのだが、そのまま帰って来なかったという話がある。 どちらも室生寺が関係しているのだが、これだけ堂々とした仏像がこの地に移ったのか、確かなことは今では分からない。大雨で増水した川から流れ着いたという話は、他でもよく聞く言い伝えだがその殆どがこの仏像のように状態がよく損傷が少ない。また、室生寺側で聞いた仏師がいたという話については、そもそも安産寺のある中村地区には仏師はいなかったとこの地区の人はいう。 なぜこの地蔵菩薩像が山を下り移安されたのかは謎である。それでも今こうして安産、子授けにと多くの参拝者が訪れ、集落の人々に大切守られているこの姿を見ていると、室生寺の何躰も並ぶひとつとしているよりも、地蔵菩薩像はこの安産寺にいるのが幸せなのかもしれない。この場所が当たり前であるかのように安産寺の地蔵菩薩像は静かに私達を迎えてくれる。 安産寺HP:ナシ 所在地:奈良県宇陀市室生区三本松中村2932 近鉄大阪線「三本松」駅下車、徒歩10分 拝観時間:毎月9日ご開帳(10:00~12:00)、その日以外は要予約 拝観料:志納 その他詳細情報は仏像ワンダーランドHPへ>>
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参拝日:2012/12/20 |
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