岐阜県には、滋賀や京都、奈良に比べて名の知れた古寺は少なく、関西や関東からわざわざお参りに来る人は少ない。
古寺がないわけではなく、実際に奈良時代や平安初期が創建とされる寺院は多いのだが、寺院の参拝を観光に強く結びつけていなため、こういったお寺への興味が強い人以外にはほとんど知られていない。
車や鉄道の文化となった現代では、ただの通過点となってしまっているが、岐阜県、すなわち美濃地方は、東西の都につながる多くの街道を持ち、現在も主要な交通路として使われている。
昔はこの街道が文化を運ぶ交通路として存在しており、その街道が集まる岐阜の美濃地方は畿内や北陸、関東の文化や信仰が入り混る"るつぼ"のような場所であった。
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美江寺 山門 |
今回訪れた美江寺はそんな美濃地方の中心、岐阜市にある。
美江寺は、戦国時代に「美濃のマムシ」と恐れられ、天下の梟雄として知られる斎藤道三の居城、稲葉山城(現在の岐阜城)の西に位置し現在は市役所や裁判所が集まる岐阜市街にある天台宗の古刹である。
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美江寺 本堂 |
美江寺の創建は古く養老3年(719年)に元正天皇の勅願により、三重県名張の「伊賀寺(坐光寺)」に祀られていた十一面観音を岐阜市の隣、現在の瑞穂市に移し寺の起源としたのが始まりと伝えている。現在も瑞穂市には美江寺という地名が残っているのでこの言い伝えには間違いないはずだ。
その後、天文八年(1549年)斉藤道三が稲葉山城を築いたこの地へ十一面観音とともに美江寺は移された。
恐らくこれは城下を含めたこの一帯を悪疫から護るために観音様をお祀りしたのだろう。
美江寺では毎年4月18日に本尊である十一面観音のご開帳が行われる。しかし、年に一度のご開帳といっても、
多くの人で賑わうとはお世辞にも言うことは出来ない。
この日は朝の10時頃に美江寺に到着したが、5組ほどの参拝者しかいなかった。
混雑した堂内の雰囲気が好きでない私には嬉しい状況であるのだが、年に一度のご開帳で人々が集まらないというのは
少し寂しいものに感じる。
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美江寺 青面金剛像 |
本堂に上がるとお寺の方が3人ほどいて、檀家さんか近所の方とお話されていた。
地域コミュニティーの場としても成り立っているのだろう。
本堂の左右には作りの良い青面金剛と大黒天が祀られている。
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美江寺 本尊十一面観音立像 |
秘仏本尊十一面観音立像は、本堂内陣の奥にある収蔵庫に安置されており、その中は数基の吊灯篭に灯りが付いているだけの薄暗い空間だった。この薄暗さが秘仏らしさをしっかりと演出してたまらなく素敵だ。
収蔵庫の中に入ることは出来ないが、そのすぐ手前の本堂と収蔵庫がつながる通路に9枚ほどの座布団が敷かれており、
そこからお厨子に安置された観音様を拝す。やや遠めから拝見するかたちとなるが等身大の像のため全体の姿は確認できる。
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美江寺 本尊十一面観音立像 |
美江寺の十一面観音は岐阜県内最古の仏像で奈良時代の脱活乾漆造り。奈良や京都を除いて、地方に脱活乾漆造の像があるというのは非常に珍しい。
顔の箔が剥がれている面積が大きく面相が把握しづらいが、眼や口は小さくまとまり胴体が長めなのもあってか全体的に穏やかな印象を受ける。
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美江寺 本尊十一面観音立像 |
天冠台の上の化仏は外に開くように配置され、長く下ろした右手は薬指に数珠を掛けている。
漆の盛り上げによって表現されている胸飾りや瓔珞、天冠台は非常に繊細で魅了させられる。
まっすぐにこちらを向き直立して立つその姿は気品に満ちているのだが、奈良や京都の
脱活乾漆造りには見られないどこか田舎臭い愛着のある表情をしていた。
美江寺HP:http://mieji.jp/
所在地:
JR「岐阜」駅よりバスの場合約15分、北出口より岐阜バスのりばバスターミナルへ、8番のりば行先番号K、10番のりば行先番号K「市民会館・裁判所前」バス停下車すぐ、又は「県総合庁舎前」バス停下車約5分
ご開帳:毎年4月18日
拝観時間:9:00~16:30
拝観料:志納
その他詳細情報は仏像ワンダーランドHPへ>>
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参拝日:2012/04/18 |