千光寺 小高い丘に立つ美しき千手観音【滋賀】
- 2011/11/06
- 20:00
滋賀甲賀 千光寺
櫟野寺の拝観を終え、向かった先は同じ甲賀市内の千光寺。 寺伝によると、天平二十一年(749年)、行基の開基で、左大臣橘諸兄が造営と伝えられている。 その後、兵火にあい、現在の地に移ったのは正保二年(1645年)の事。災難は続き安政二年(1855年) には火災により堂宇や古文書は失われ、現在の本堂は明治十一年に建てられた。 今では往時の姿を見る術はないが、千光寺は甲賀六大寺の一つで西住院を始め十の坊があったと 伝えられている。 野洲川が東に流れのんびりとした農村地帯の小高い丘の北側斜面にあり、10月も終わろうとするこの日は 冷たい風が辺りに吹いていた。 ![]() |
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千光寺 | |||
八坂神社と隣同士に建つのが千光寺で、古来からこの寺が八坂神社の別当を兼ね、 八坂神社の祭礼の時には、神輿が必ずこの寺を通ることになっていた。あとからこの八坂神社にも 寄ってみたのだが、山の地形を利用し傾斜を付けた境内は、静寂に包まれており社殿は永享十一年(1439年)の建造で重要文化財に指定されている。屋根が前に曲線形に長く伸びて向拝となった一間社流造、檜皮葺の立派な社殿だった。 ![]() |
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八坂神社 社殿 | |||
今回は時間がなく拝見できるかの確認すら取れなかったが、この神社には幾体かの牛頭天皇の神像群が祀られている。 ![]() |
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八坂神社 川枯神 | |||
車を八坂神社の境内に停め千光寺の参道を進むと、すでに総代さんが待っていて下さり、 お堂と収蔵庫の扉を開けて待っていてくださった。 ここは無住の寺で、現在は兼務住職に依って寺門の維持をしているが、私のような参拝者への案内は 全て3年交代で世話方さんが案内しているのだという。湖北と同じようにどこも世話方を務める方というのは優しくおおらかな人ばかりである。 本堂の前には「川枯寺」という石柱が建っているのだが、世話方さんが言うに、 どれくらいか前は、現在の千光寺ではなく「川枯寺」と書いて「センコジ」と読んでいたのだという。 この名は隣の八坂神社に「川枯神(かはかれのかみ)」「川枯姫命(かはかれひめのみこと)」を 祀ってあることから、その神宮寺として川枯寺と名付けたのだろう。それがいつの日か 「千光寺(センコウジ)」と名を変えて今日に至っている。 ![]() |
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千光寺 本堂と川枯寺の石柱 | |||
本堂にあがると護摩供養のための祭壇が設けてあり、正面にはなんとも破損の激しい千手観音坐像が 安置されていた。ここでは九月十七日と十八日に檀家信徒二百戸ほどの護摩法要が行われるのだという。 ![]() |
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千光寺 本堂 | |||
本尊は重文指定のためその隣りの収蔵庫に安置されており、 そこには平安時代藤原期の千手観音が安置されている。 像高は126.5cmで内刳りをした檜の一木造り。正面の写真などで見ていたイメージよりも小ぶりで愛らしく繊細なイメージを受けた。 ![]() |
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千光寺 収蔵庫 | |||
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千光寺 千手観音立像 | |||
つり目がちな表情は数々の災難を乗り越えてきた厳しさを感じるが、 脇手のひろがり方は誇張しすぎずやや大きめの化仏が、女性らしい柔らかな体躯を一層引き立てる。 また、垂直に伸びた二本の棒杖が画面を区切るかのように全体の調和を保っている。 ![]() |
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千光寺 千手観音立像 | |||
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千光寺 千手観音立像 裳 | |||
その地で、その村の人々に守られてきた観音様というのは、その一種独特な力強さと温かみを持ち合わせている。農村地帯でもあるこ水口では、村の人々が雨乞いとして手を合わせたであろうし、火災に見舞われた際には真っ先に観音像を運び出し村の安泰を願ったに違いない。 ![]() |
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千光寺 千手観音立像 暴悪大笑面 | |||
いつの時までが川枯寺と呼んでいたのか分からないが、農村地帯でもあるこの地に川が枯れるという 名前は響きの良いものではなく、時代が経つにつれ、本尊である千手観音の光りとして「千光寺」と 縁起の良い名前に変えたのではないか。寺名を変えるほどの転換期、それは恐らく雨乞いを行うほどに 日照りの強い日が続いたある年に、村の人々と住職で話し合って決めたのかもしれない。 または、兵火や火災から逃れ観音様を運び出した時に、次の明るい未来を村の人々が夢見て「千光寺」と 名付けたのかもしれない。 境内の下に広がる田圃を眺めながら、私はそんな勝手な妄想を浮かべていた。 ![]() |
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千光寺 千手観音立像 宝珠をもつ手 | |||
千光寺HP:ナシ 所在地:滋賀県甲賀市水口町嵯峨1613 JR草津線「貴生川」駅下車 車で約20分 JR草津線「貴生川」駅下車 バスで約20分 はーとバス嶬峨中村下車、徒歩約10分 拝観時間:要確認 拝観料:500円 その他詳細情報は仏像ワンダーランドHPへ>>
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参拝日:2010/10/26 |
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