西野薬師堂 威風堂々とした二躰の如来像【滋賀】
- 2011/10/25
- 17:44
滋賀湖北 西野薬師堂
湖北高月町は琵琶湖に面した湖側と山側とでその表情は異なる。 湖側の西野地区は三方を山に囲まれ、一方を余呉川に囲まれた集落で、その昔は大雨になると余呉川の水が氾濫し集落一帯が冠水してしまうという被害を度々受けた地域である。 そこで江戸時代に民衆の私財を投じて作ったのが、西側の岩山を掘り琵琶湖へと水を送る放水路「西野水道」だ。 あとで調べるとこの水路は200~300メートルほどの距離で琵琶湖にぶつかり、その水路を抜けて琵琶湖側に出れば、現在3代目として使われている新たなコンクリート造の水道も見ることが出来るそうだ。しかしこの水道、ノミだけで掘ったと いうから苦労が偲ばれる。総経費は1275両、現在の価格にして5億円ほどの費用を村人で捻出し5年の歳月を かけて完成したものだという。氾濫するたびに集落は飢饉に悩まされており、人々にとっては必ず成し遂げなけ ればならない工事だったのだろう。 現在もその放水路を通り琵琶湖側へ出ることができるが、一人で立ち入るにはなかなか度胸のいる外観で、 まるでコウモリでも出そうなくらいに不気味な雰囲気を漂わせている。とてもこのような中に一人で入る勇気は なく、私は入口の前で写真を撮り、そそくさと来た道を引き返して目的地の薬師堂に向かった。 ![]() |
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西野水道 | |||
西野水道から程なくして集落のほぼ中心に位置するのが、この日の最後の目的地、西野薬師堂。 平安時代に彫られた薬師如来立像と十一面観音像を祀っている。 ![]() |
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西野薬師堂 | |||
今では小さなお堂を残すのみであるが、西野薬師堂はその昔、この地にあった天台宗の泉明寺という寺院が前身で、 開基などは不明であるが中興は延暦年中(782~785)ということが伝わっている。 延暦年中に伝教大師は薬師如来と十一面観音、薬師如来を守護する十二神将を刻み、この寺に納めたともいう。 天智天皇の息子であり、壬申の乱で大海人皇子(のちの天武天皇)と戦った大友皇子の末裔西野丹波守家澄は、 菩提寺として崇敬護持したと伝えられているから相当大きな寺院だったに違いない。 しかし、その寺院もそれ以後は、度重なる戦乱で荒廃し、永正十五年(1518)浅井氏の兵火にかかって堂宇は消失した。仏像は集落の人々の手で救い出され、現在は充満寺の所属として、境内の外に建つ薬師堂に安置されている。 お堂の中に安置されているのは、平安時代の木造十一面観音立像と木造薬師如来立像。もともとこの日の参拝は、円満寺で終える予定だったが、まだ時間が早く、もう一カ寺回れると思い円満寺を出たあと西野薬師堂の世話方さんに拝観のお願いを伝えた。円満寺からは車で15分。到着すると当番制で務める世話方さんはすでに待っていて下さり早速お堂を開けていただいた。 ![]() |
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西野薬師堂 | |||
堂内の正面にかかった帳を開けて頂くと向かって左には十一面観音像、右には薬師如来像が安置されており、ともに平安時代の作で量感のあるお姿で威風堂々といった感じがする。また、薬師如来像は延暦寺根本中堂本尊の模刻像のひとつであるという説もある。 どちらも顔と上半身が同じ色で似ているように感じるはそれは後世に塗られた朱漆のせいであり、実際には二躰の像容は異なる。 ![]() |
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西野薬師堂 十一面観音立像(堂内で販売している写真より) | |||
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西野薬師堂 | |||
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西野薬師堂 | |||
十一面観音立像は166.7cmと大きく、檜材の一木造り。肩幅は広く胸と腹部は肉付き豊かでどっしりとしている。 両手足と両足先、頭上の化仏は後補となっている。その内の破損した頂上面と、牙上出面、暴悪大笑面の3つは木箱に収められているので見せていただいた。 ![]() |
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西野薬師堂 薬師如来立像(堂内で販売している写真より) | |||
薬師如来立像は十一面観音像より少し低く159.4cm。欅の一木造りで衣紋はやや形式化されており、螺髪は彫り出されている。薬師如来の特徴である薬壺は持たず、阿弥陀如来の来迎印を結んでいる。 これは薬師如来像と伝えられているもので、現在は両手先は後補として現在の来迎印を結んだ両手になっているために阿弥陀如来ではないかという学術説もあるために伝薬師如来像とされている。 しかし、こうゆうことを言うと美術的にみる人には反感を買うかもしれないが、その寺院でその土地の人々が薬師如来と伝えられているのであれば、学術的な話しはどうでもよいと考える。どれだけの裏付けがあったとしても、この集落ではこれからも”伝”薬師如来ではなく薬師如来として崇められていくであろう。この地に先祖代々、受け継がれた信仰心というのは学術論で変えることはできないものなのだから。 これで、この日一日の湖北巡りが終わった。今回は高月町のみを周らせていただいたが偶然にも水に纏わる話を各所で聞かせていただくことが出来た。水利を得た井口、水を求めた高月、水害に悩む西野。 どの集落にも共通するのは水と観音像であった。生きるために人々は水と土地、観音像を整え続けて現在に至っている。 西野薬師堂HP:ナシ 所在地:滋賀県長浜市高月町西野 JR北陸本線「高月」駅下車 車で約10分 高月駅東口からコミュニティバスで「西野」バス停下車 長浜市コミュニティバスはこちら 拝観時間:要予約 拝観料:300円 その他詳細情報は仏像ワンダーランドHPへ>>
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参拝日:2010/09/29 |
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